筆者は、鑑定評価書の作成過程において難しいことは何かと問われたら、間違いなく「地域概要の書き方」と答える。鑑定士になってしばらく、それも数年間、地域概要の書き方には相当苦しんだ。たかだか10行程度の文章に半日の時間を費やすということもざらにあった。これまで沢山の実務修習生を指導してきたが、「地域概要の書き方」を見れば、その実務修習生に鑑定評価書作成のセンスがあるかどうかわかる、というくらい力の差がでる箇所であるし、鑑定士として腕の見せ所でもある。ただし、半日費やしてどんなに素晴らしい文章を作成したからといって、実務修習で加点がもらえる訳ではないので、修習生には労せずしてプロらしい文章を作れるようにコツをぜひ習得してほしい。ポイントは点、まず①大きい視点→小さい視点と②テナントの視点である。①は、いきなり近隣地域のことを書くのではなく、対象不動産が存する広域的なエリアの性格→最寄駅→周辺地域→近隣地域とブレイクダウンしていくこと。②は、商業地の評価であれば、自分が事務所等を探すテナントになったと想定して重視する価格形成要因を考える。具体的には、交通利便性、利便施設への接近性、商業繁華性(街路条件、視認性、人通りなど)の3点について言及して、最後に近隣地域の特徴と競争優位性を簡潔にまとめることである。言葉にすれば難しいが、以下に用意した2パターンのテンプレートのいずれかを利用する、もしくはそのミックスで相当数の案件に応用が可能と考える。
<都心部の高度商業地域の場合>
近隣地域は政府機関や大企業の本社などが集積し政治、経済、文化の中心として機能している東京の都心3区の一角をなす●●区に存している。最寄駅である●●駅は、●●線や●●線が乗り入れるなど交通利便性が高く、古くからオフィス街として成熟しているが、近年は敷地の集約化によって大規模なオフィスビルの開発が見られるなど、エリアの新陳代謝が進んでいる。●●駅周辺には20以上の物販店舗、飲食店舗が入居する商業施設●●が存するほか、ホテル、金融機関、飲食店舗等が多数集積しており高い繁華性を誇っている。近隣地域は●●駅から徒歩3分の場所に、中高層の事務所ビルや店舗付事務所ビルが建ち並ぶ商業地域である。幹線道路に面しており視認性に優れる立地特性を有していることから、大手企業の支社、中小企業の本社機能としての事務所需要のほか、来店型のサービス店舗など多種多様なテナント需要を享受できる立地条件下にある。
<都心部からやや外れた商住混在地域の場合>
近隣地域は東京の都心部から東方のいわゆる城東エリアと呼ばれる下町風情と利便性が混在したエリアに存している。最寄駅である●●駅は、ターミナル駅である●●駅から約10分と都心接近性に優れていることから、●●エリアのサブマーケットとして機能している。近隣地域の至近には利便施設が少ないものの、●●駅周辺にはスーパーマーケット、金融機関、大手チェーンの飲食店舗、コンビニエンスストア等の利便施設が建ち並んでいる。このようなエリアにあって、近隣地域は幹線道路背後に事務所ビルや共同住宅などが混在する商住混在地域に存している。商業繁華性が高い立地条件とは言い難いものの、その落ち着いたビジネス環境と都心部に比べた賃料の割安感から、中小企業やスタートアップ企業などコストパフォーマンスを重視する需要者層へ高い訴求力を有しているエリアと言える。