株式会社東京アセットワークス

商業地における同一需給圏の判定について~実務修習編~

2026.01.10

不動産鑑定評価基準によれば、「同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要があり、特に高度商業地については、一般に広域的な商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される傾向がある」とされている。

前半に「その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要があり」とあるが、正直ベテラン鑑定士でも需要者の選好性を的確に把握することは非常に難しい作業と言える。この点、後半の「その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される」という言葉が一つ判断の拠り所になると思われる。東京都内にあっては、オフィス市場に限定すると、都心3区(千代田区、中央区、港区)あるいは都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)といったゾーニングがあり、当該エリアに対象不動産が存する場合には需要者の選好性とゾーニングが合致する場合が多い。また、大規模ターミナル駅や複数路線が乗り入れている駅は人気が高く、特にコロナ禍以降は従業員の確保が難しくなる中でこのような駅が企業に選ばれる傾向が強まっている。2路線以上のビルは空室率が下がる一方、1路線の物件は上昇が止まらないといった調査結果もあり、最寄駅の利便性の類似性によって同一需給圏を判定することも有用と言えよう。

以下、いくつか同一需給圏判定の例を挙げ、コメントをしていくこととする。

例1)対象不動産と代替・競争関係が成立する不動産の存する範囲は、都心三区(千代田区、中央区、港区)に位置し、最寄り駅からの交通利便性が高く、中高層の店舗付事務所ビル、事務所等が建ち並ぶ繁華性の高い商業地域の存する圏域であると判定した。

→都心三区という需要者の選好性が明確でかつ、地域の特性もイメージがしやすい点で、好印象な文章となっている。

例2)対象不動産と代替・競争関係が成立する不動産の存する範囲は、港区浜松町及びその周辺部において中高層の店舗、事務所ビルが立ち並ぶ地域が存する圏域であると判定した。

→港区浜松町及びその周辺という極めて範囲が狭い割にその理由が不記載で需要者の選好性が不明瞭な点で残念な文章と言える。

例3)対象不動産と代替・競争関係が成立する不動産の存する範囲は、港区及びその周辺区の幹線道路、準幹線道路沿いを主として、中高層店舗兼事務所ビルが存する圏域であると判定した。

→港区の周辺区には、品川区や目黒区も入ってくるが、はたして目黒区がオフィス市場を前提とした場合に相互の間に代替、競争等の関係が成立するかは怪しいところであるが、道路を幹線道路、準幹線道路に特定した点は、対象不動産がそれなりの規模を有していると想像さえせる一助となっている。

例4)対象不動産と代替・競争関係が成立する不動産の存する範囲は、港区及び港区周辺区内の幹線道路背後地で、中高層の事務所や店舗もしくは店舗兼事務所が建ち並び、一部で中高層の共同住宅もみられる商業地域の存する圏域であると判定した。

→港区及び港区周辺区については前記と同様やや工夫が必要といえる。また、商住混在地域を同一需給圏としているが、オフィスビルが最有効使用と考えられる地域の不動産の評価においては商業地域が最も代替性が高いと考えるのが普通であって、たまたま近隣地域に住宅が混在しているからといって混在地とするのはやや違和感を覚えるし、事例の選択は同一需給圏から行うという原則からしても、事例の収集が困難になることが予想できる点で好ましくない判断と言えよう。